知財・特許業界で仕事をしたい人のための応援コラム

第10回 特許実務未経験者を採用する際の、特許事務所側の都合

 特許事務所や企業の知的財産関連部門からの求人は数多くありますが、その多くは特許実務経験者です。特許事務所であれば、特許実務経験者を収益獲得に貢献してくれる即戦力として期待することでしょう。受注案件が処理しきれないほど抱えている状況であれば、当然の経営判断です。では、同様に特許実務未経験者の採用についてはどうでしょうか。

 特許実務未経験者が転職に不利な点は、すぐに思い浮かぶだけで2つあります。
 1点目は、費用的リスクです。特許実務未経験者の場合、少なくとも特許明細書作成を習得できるようになるまでは、事務所に対して収益というかたちで貢献できません。(しかし、事務所側は、当初契約した通りの一定額の給与を支払わなければなりません。)
 2点目は、ビジネス機会の損失リスクです。特許明細書作成中の弁理士・特許技術者が、業務を一旦中断して指導にあたることで業務効率が低下し、収益のロスに繋がる可能性があります。事務所経営者の立場としては、後者のような業務遅延がもたらすクライアントの信用損失は、経営に大きく響きます。

 こうして考えると、特許事務所が実務経験者を歓迎する理由は明確であり、一見、未経験者が入り込む余地はないように思えるかもしれません。しかし、必ずそうとは限りません。私自身は、実務未経験で特許事務所に採用されました。特許事務所の求人募集広告を調べていくと、少数ではありますが「実務未経験者可」というケースを見かけます。それでは、特許実務未経験者はどのような点において転職のチャンスを勝ち得ることができるのでしょうか。恥ずかしながら私自身、明快な答えを持ち合わせていませんでした。しかし、先日、当社の「転職サポートサービス」で求人情報をご提供いただいている某特許事務所の所長から、採用活動の実情について貴重な考えを伺うことができましたのでご紹介します。

 よく、専門スキルを生業としている人を「手に職を持つ」などと言いますが、特許実務もまさに職人気質的なところがあり、しっかりしたスキルと経験さえ持っていればクライアントもつきますし、転職時でも売り手市場であることは間違いありません。
 ただし、特許明細書の作成に関しては、事務所毎、そのクライアント毎に「方針」があることに留意しなくてはなりません。例えば、「特許請求の範囲」の作成についても数種類の作成パターンがあり、統一した方針を持っている事務所もあれば、クライアントの要望に合わせる事務所もあります。したがって、特許実務経験者といっても、新しい事務所へ移ればその事務所のやり方に合わせざるをえません。以前在籍していた事務所で文書作成の「悪い癖」(独特の癖)が染みついてしまっている方だと、その癖をまず修正するのに苦労し、入所早々フラストレーションを抱えることもあるかもしれません。野球選手のバッティングフォーム同様、いったん身についた癖はなかなか抜けないもので、修正してものにするには時間がかかります。

 つまり、「実務経験者に余計な労力をかけるよりは、素質があって、純粋で飲み込みの早い人材を自所の方針で一から教育したほうが、かえって効率的である」というのが、その所長の考え方です。その所長自身、後進の指導に人一倍情熱を持っている方で、自分が理想と考える弁理士ないし特許技術者を育て上げ、世の中に輩出することも、弁理士業務の使命だと、心得ているのでしょう。そのような先輩達がこの業界を支えてきたのだと実感すると同時に、そのような事務所、指導者との出会いこそ、特許実務未経験者にとってのチャンスとなります。

 当社でも、「転職サポートサービス」営業チームが、特許事務所や企業の採用担当者と日々情報交換を行っていますが、逆に採用側へこのような特許実務未経験者の採用を優先する考え方を理解していただけるよう努力してまいりたいと思います。

[2006/09/13] 知財ナビより転載

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