知財・特許業界で仕事をしたい人のための応援コラム

第12回 若手弁理士からの転職相談 -まずは現在の仕事に全力投球、顧客の信頼を勝ち取れ-

 2005年9月にスタートした知財情報局の「特許キャリア相談」では、既に数多くの方々からご相談をいただき、我々も全てに対して何らかの形で回答をしてまいりました。知的財産に関するコンサルティング業務を主に行なっている当社にとっても新規事業ゆえ、まだ至らない面もあるかと思いますが、1行、2行のメール返信ではなく、これまでの特許実務の経験を生かして、できる限りの範囲で回答させていただいています。そのため相談内容によってはかなりのボリュームとなってしまうこともあり、驚きも含んだお礼のご連絡を頂くこともあります。無料のサービスとはいえ、我々のアドバイスが、知的財産分野での活躍を志す皆さんにとって少しでも参考になったかと思うと、こうした人材事業にもとてもやりがいを感じます。
 ここ最近は、特許業界の最前線で活躍している若手弁理士の方からの相談も増えてきました。特許事務所だけではなく、企業の知的財産部、産学連携機関など様々な職場環境や立場で勤務されている皆さんです。今回は、こうした若手弁理士の方々からの相談内容をもとに、お話したいと思います。
 第一に、「キャリア」は、個人の価値観、考え方を反映したものであるべきだということです。すべての人には職業選択の自由が認められています。自分の力を最大限に発揮できる環境を優先するのか、より多くの収入を目指すのか、独立にこだわるのか。職業の選択は、自身の責任と判断で決めるものであり、それらに対する価値観を誰からも強制されることはありません。したがって、特許業界でも同様に、高度な専門知識と実務能力の習得はもちろん、自身の価値観を具現化するような「キャリア」を形成していただきたいと考えています。

 若手弁理士の皆さんからのお問い合わせの中でも特に多いのが、比較的小規模の特許事務所に勤務されている方からの相談です。小規模の特許事務所の場合、所長からの評価や方針に納得がいかないことも多いようです。評価に関して、その主たる業務は特許明細書の作成であり、基本的に一人で完結させる業務です。企業の知的財産部や産学連携機関とは異なり、組織の中で広範囲にわたり連携が要求される業務ではありません。従って、純粋に業務のみを評価するのであれば、売り上げを基準にすれば自分自身でも評価できるわけです。従って、所長の評価と自己評価にギャップが生じている場合、そこに何らかの不満が生じるのでしょう。一方、方針に関しては、あまり明確にしていない特許事務所が多いのも事実です。つまり、勤務している特許事務所が、将来、どのような方向に進んで行くのかよくわからないため、自分の将来に不安になる、という相談です。

 まずここでお伝えしておきたいことは、弁理士がその他一般のケース(特許事務所の事務職、弁理士資格を持っていない企業の知的財産部員などの実務経験者)と大きく異なるのは、担当する顧客企業から信頼を寄せられるだけの仕事をしている限り、他の事務所への移籍、独立開業など、選択肢の幅が十分に広がっている点です。というのも、顧客から信頼される弁理士は、どの特許事務所でも欲しい人材なのです。弁理士のような専門性の高い仕事は、極論すれば所属長よりむしろ、その特許明細書に対して支払いを行なう顧客企業からの評価こそ、その道のプロとしての生命線であると言えます。したがって、入所した特許事務所で特許明細書の作成に従事している若手弁理士の方には、所長の評価や事務所の方針を気にするのではなく、何よりもまず顧客企業に対する仕事に全力を傾けるべきでしょう。

 中には、特許業界に入る当初から「弁理士として独立開業するぞ!」という目標を立てる方もいるかもしれません。しかし、実際に仕事を経験してみて、「組織の一員として活動する方が、自分には合っている。」と考え直す方もいるでしょう。特に、経験の浅い若手弁理士は、実務経験を通じて仕事に対する自分のスタイルを確立していくものです。したがって、まだ成長段階途中の弁理士の方は、まず特許実務を一通りマスターした段階で、再度、弁理士として自分のビジョン、スタイルを明確にしていっていただきたいです。

 一方、企業の知的財産部や産学連携機関に勤務されている弁理士の場合、「権利化、訴訟、ライセンス契約交渉、模倣品対策など、組織的な活動を中心に幅広い業務について経験できるのは嬉しいが、特許明細書の作成にあまり関与できない。」という相談が多いです。確かに企業などに勤務される弁理士のお話を伺っていると、権利者(企業)側の立場になって、主体的に知財戦略を練ったり、訴訟や契約に携わったりできる点で仕事に充実感が得られる一方、特許明細書の作成に専念できる環境は少ないようです。そのような相談者は、将来、特許事務所としての独立などを考えている方が多いようですが、特許明細書作成に専念することが性分に合っているのか、じっくりと判断しながら慎重に判断して欲しいと思います。
 逆に、特許事務所に勤務する弁理士からは「明細書の作成は十分経験を積んだが、特許戦略を立案したり、研究開発部門と連携してその戦略を推進していくなど、明細書作成以外の業務が出来ない。」という相談を受けることもあります。同じ弁理士の仕事でも隣の芝生は青く感じるということでしょうか。人材の流動が活発化して、様々な知識や経験を積んだ弁理士が増えることは顧客にとっても有益なことです。

 私なりの1つの結論として、是非、若手弁理士の方には幅広い視野を持ちながら、現在の職場での仕事で可能な限りの経験を積み、顧客のニーズに十分応えていくことです。その結果、現在の職場での仕事をやり尽したという結論に至った時や、新たな目標が見えてきた時に、次のステップに向けて転職すれば良いと思います。

[2007/01/18] 知財ナビより転載

>このページのトップへ