知財・特許業界で仕事をしたい人のための応援コラム

第5回 仕事と資格の関係 -弁理士試験シーズンに想う-

 ゴールデンウィーク明けから曇天が続いていますが、1年で最もさわやかなこの季節に、毎年弁理士の短答式試験が実施されます。私も8年前は、一受験生として、5月の連休中から本試験に向けて最後の追い込みに入っていました。連休を楽しむ余裕などあろうはずもなく、生活のすべてを弁理士試験のために費やしていました。本試験当日の緊張感と精神の高揚、そして本試験が終わった時の脱力感が、まるで昨日のことのように思い起こされます。
 さて、今回は仕事と資格の関係についてお話したいと思います。これは、弁理士資格や知的財産検定などの受験動機を、改めて整理する意味もあるからです。

「弁理士試験合格!」自体は、特許業界で活躍の場を広げるための1つの方法

 8年前、私は弁理士試験の最終合格者となりました。その直前から人材会社から紹介された特許事務所に入所していたことについては以前にもお話しましたが、その後、特許明細書作成などの実務を、上司である弁理士から徹底的に叩き込まれました。実は、合格後しばらくの間、弁理士資格所有者であることについては職場でできる限り口に出さないようにしていました。なぜならば、当時はまだ、仕事が満足にできなかったので、弁理士であることを公言する自信があまり無かったからです。つまり、今振り返ってみると、一生懸命勉強して合格した弁理士試験ではありますが、それ自体は、特許業界で活躍の場を広げるための資格に過ぎなかったというのが実感です。現在もそうなのですが、自分の仕事に自信を深めていくためには、やはり資格だけではなく、出来る限り多くの先輩方から貴重なアドバイスをいただきながら、クライアントからの様々な案件を通じて実務経験を積んでいくことこそ、私にとって極めて大切なことのように感じます。

 一方、特許事務所の場合、仕事の大半はクライアントから受注した特許明細書の作成となります。先程も少し触れましたが、企業の知財部と比べて仕事の範囲が絞られていると言えるでしょう。ただ、特許明細書の作成という非常に専門性の高い業務に特化しているがゆえ、豊富な知識と経験を要する奥の深い仕事になります。また、「1人で完結できる仕事」であるとも言えます。「毎日、特許明細書を書き続けながら着実にスキルアップしていく」という職人気質的志向が極めて重要になります。前回のコラムでは、特許業界への女性の進出について述べましたが、着実にスキルアップしていく姿勢や、1つの仕事を長く継続できる根気という面では、女性の方が能力が高いと感じる事も多く、それも特許事務所で活躍する女性が増えている背景の1つかもしれません。

弁理士試験受検、就職・転職前には、特許業界で活躍する具体的なイメージを

 現在、当社の「特許キャリア相談」を通じて様々な相談舞い込んできますが、弁理士試験合格自体を最終目標のようにとらえている方々が気がかりでなりません。そこで、これから弁理士試験にチャレンジする方、特許業界への就職・転職を考えている皆さんは、ぜひ一度、自分が特許業界で活躍するイメージを具体的に描いてみてください。例えば、都心の高層ビルに入居する大手特許事務所の一員として、特許明細書の作成に集中している姿でも良いと思います。個人事務所で、所長からマンツーマンで厳しい指導を受けて実力をつけている姿、企業の知的財産部員として、海外でライセンス交渉を行っている姿でも良いでしょう。当然それらには明確な答えなどはなく、皆さんの特許業界に対する志の数だけ答えがあります。
 私が弁理士試験の受験生だった頃は、国家資格以外に、「知的財産検定」「ビジネス著作権検定」「知的財産翻訳検定」のような民間の検定制度は現在のようにありませんでしたが、こうした検定で出題される様々な問題を通じて、職場のイメージ、実務のイメージを掴むこともできるでしょう。

 弁理士受験者、または特許業界への就職・転職希望者の多くは、知的財産権そのものに対しては「興味」を持っているでしょう。つまり、「発明」、「デザイン」、「特許権」、「ブランド」、「商標権」など、知的財産権に関連する法制度の仕組みや具体的な法律内容、知識に面白さを感じていることについては皆さんに共通しています。
 確かにこのような純粋な興味や好奇心は、新しい分野を学ぶための素晴らしい理由やキッカケであることは間違いありません。しかしながら、その分野の「仕事」に対してまでも興味を持てるかどうかは、さらに高い次元の問題です。これに気づかないまま時間とパワーを浪費して、就職や転職、弁理士試験などへの行動に移ってしてしまってはいけません。特に、弁理士試験という難関資格の取得を目指して学習する際、仕事に明確なイメージやビジョンを持てない状況では、結果的に単なる自己の知識欲を満たすための勉強になってしまうからです。こうした意識を持っているのといないのとでは、将来のキャリアに多大な影響を及ぼすと思われます。

「短答式試験」合格も立派な実力の証明。履歴書に堂々と記入を

 弁理士試験に話しを戻しましょう。5月に実施する「短答式試験」に合格すれば、ある意味、知的財産に関する理解度が一定水準を越えていることの証明となります。仮に、その後の「論文試験」に通らなくても、ぜひ、大きな自信につなげてください。短答式試験の合格を好機ととらえ、在職中に転職活動を本格化させるのもひとつの方法です。短答式試験の合格者は、就職・転職活動をされる際、応募書類には「弁理士短答式試験 合格」とはっきり記載しましょう。また、面接では、「私は短答式試験を突破しました」と自信を持って答えましょう。面接官に対する印象点はグッとアップすると思われます。(難関で知られる「知的財産検定1級」であれば、準1級/評価Aレベルも同様です。)

「論文試験」への対策準備は,将来の特許明細書作成の基礎に

 短答式試験の次に待ち受ける「論文試験」についてですが、いくら高い技術理解力をお持ちの方の中でも苦手とする方はいるでしょう。しかし、この論文試験の受験勉強がどれほど特許明細書の作成の基礎へとつながっているか、私は身を持って実感しています。難関資格なので、試験合格だけを考えると辛い勉強になってしまうかもしれませんが、「受験勉強を通じて、将来弁理士として活躍するための基礎能力を養っている」と考えれば、格段に勉強の効率は上がると思います。

 以上、今回は、仕事と資格の関係について簡単に解説しましたが、最後に、知財の世界でキャリアアップを図るための準備段階で大切なことをお伝えしたいと思います。先ほど、自分が活躍するイメージを具体的に描くことが大切であると述べましたが、そうしたイメージにたどり着くために、下記の3点を分析してみましょう。

(1)「自分がやりたいこと」を整理する
 知財の業界で、自分がやってみたいことを明確にしてみましょう。箇条書きで構いませんので、自分の志を整理してみることが大切です。
(2)「自分ができること」を整理する
 知財の業界で、自分が現在できることを明確にしてみましょう。つまり、今までの経験・スキルの棚卸しをしてみることが大切です。
(3)「ニーズ」があるかを整理する
 知財の業界で、自分が活動できる具体的な職場が存在するのかどうか、明確にしてみましょう。また、そのような職場へ容易に転職できるか否かも考えて見ましょう。自分がやりたいことであっても、そのような職業が存在しない場合には、キャリアアップが難しいからです。

 上記(1)〜(3)の全てを満たす仕事こそ、皆さんが活躍する場所です。こうした自己分析を経て、自分がどこに向かってキャリアアップすれば良いのかがより明確になります。そして、具体的なイメージにたどり着かない場合は、もう一度、客観的に自己分析をしましょう。自分に不足しているものが明確になることでしょう。
 キャリアへの明確なビジョンさえあれば、行動方針は自ずと生まれてきます。そのような観点から、仕事を通じてスキル磨き、併せて資格などの習得に努めることができれば、途中で目標を見失うことは無いと思います。

[2006/05/25] 知財ナビより転載

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